防火衣の働き
消防隊員と言われて、まず最初に思い浮かべるのは、やはり防火衣をまとった立ち姿でしょう。
火災による高熱から消防隊員の身体を守る事に特化した防火衣は、普通の衣服とは何もかも異なります。その代表的な例は、なんといっても耐熱性・耐火性。火災現場の最前線、時には燃え盛る建物の中に入り活動する消防隊員を保護する為、特殊な素材を使用した防火衣は、素材により約600℃から約1000℃まで耐える事ができます。
そんな防火衣は、火災現場での命綱である事は改めて言うまでもないでしょう。その為、様々な研究機関や企業によって日々開発・改良され、日本各地の消防機関で多種多様な防火衣を見る事ができます。
防火衣の仕様
本記事を掲載した時期(2015年1月頃)、徳島市消防団渭北分団で主に使用されている防火衣は2種類あり、株式会社赤尾のエミユファイター®防火衣と、キンパイ商事株式会社のMETALMIC® FIRE COATです。
渭北分団では、ポンプ車にエミユファイターを8着前後積載している他、分団員全員にMETALMICを貸与しています。また、基本的に全ての防火衣に防火帽(防火ヘルメット)・手袋は当然の事、懐中電灯を備え付けています。
またいずれも、部隊名である「渭北」という文字と、階級周章(階級を示す線)を記しています。
以上に加えてエミユファイターには、先着隊として活動する事(高所からの進入・放水等)も考え、安全帯(バックル型)を装着しています。
エミユファイター・METALMIC、双方共に徳島市消防団全体で一括して納入してもらっている為、渭北分団に限らず、徳島市消防団の各分団・各班で概ねこの仕様が標準になっています。
尚、徳島市消防局をはじめ多くの常備消防で採用されているセパレート型(上着+ズボンの上下衣セットになっているタイプ)は、渭北分団をはじめ多くの消防団ではあまり採用されておらず、コート型(やや丈の長い上着のみのタイプ)が主流となっています。
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防火衣の種類とその違い
上述した様に、渭北分団ではエミユファイターとMETALMICの2種類の防火衣が採用されています。何故2種類を採用するのか、或いは、そもそも全く異なる種類の防火衣があるのか、と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
その答えは、それぞれ長所と短所があるから。
まず、エミユファイタータイプの布製防火衣に付いて。こちらはアラミド繊維と呼ばれる特殊な素材が使われており、優れた耐火性・耐熱性を持ち、非常に丈夫です。しかしながらその一方で、1着当たりの価格が高く(METALMICタイプ約3着分)、手入れをしないと性能が低下しやすい等、こと消防団では導入・活用が難しい一面があります。
続いて、METALMICタイプのアルミ製防火衣。こちらの長所は、比較的安価であり、手入れをあまり必要としない点にあります。また、表面にアルミコーティングを施している性質上、エミユファイタータイプの布製防火衣にも決して引けをとらない耐火性・耐熱性を有します。ですが短所として、そのアルミが化学変化によって黒ずみ、使用する消防隊員に熱が伝わりやすくなっていってしまう点等があります。
それぞれ一長一短ある為、どちらが良いという訳では無く、消防組織によってどちらを採用するかも異なります。近年ではエミユファイタータイプの防火衣を採用する所が増えましたが、導入した所が必要なメンテナンスを必ずしも行っている訳ではないという実情もあります。その一方で、今でもMETALMICタイプの防火衣を愛用する所もあります。
また、最近ではそれぞれの長所を活かし、部位に応じてアラミド繊維とアルミを使い分けるハイブリッドタイプも登場しています。
防火衣に装着されるあれこれ
防火衣は火災現場に出動する際には必ず着用する物である事から、火災現場で必要となるであろう様々な物を備え付けます。
例えば、安全帯(右写真・上段)。これは高所での活動時、誤って転落・滑落した際の落下を防ぎます。火災によっては1階からの進入が出来ずに、2階や3階からの進入・救助という事も決して少なくありません。この際に、安全帯の丈夫なベルトで身体を縛着し、このベルトから伸びるランヤード・ロープを適当な固定物に縛着する事で、万が一の事故を防ぎます。
或いはシールド・シェード(右写真・中段)。防火衣とセットである防火帽(防火ヘルメット)に内蔵されたこの透明な板は、活動時に飛んでくる水や破片から顔面、特に目を保護します。
シールドに関して言えば、顔全体を覆う空気呼吸器を兼ねた物(所謂「面体」)である場合が、常備消防では多く見られます。尚、渭北分団では過去にこの面体を採用していた時期がありましたが、老朽化等により2010年頃に廃止されました。現在でも、全国的に見ればごく一部の消防団では面体を導入している事例が見受けられます。
この他、屋内進入時や夜間には必須なヘッドライト・懐中電灯もよく取り付けられます(右写真・下段)。しかしこのライトは一般的な物とやや異なります。放水する場所で使用する事から、防水機能を有している事が重要なのは言うまでもありませんが、これに加えて「非発火防爆」機能(ガスが充満した環境下で操作しても引火・爆発しない作りである事)が大切です。
これら以外にも、ホースや管鎗(ホースの先に結合する物・筒先)等を縛着・高所からの引き揚げ等に用いる小綱、通信を行う無線機…等々が付けられたりします。
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昔の防火衣
アラミド繊維は勿論(現在ではアラミド繊維よりもさらに機能の高い繊維も開発されています)、アルミコーティングの防火衣が、昔からあった訳ではありません。長い長い歴史の中で、少しづつ改良・開発されてきました。
「刺し子(さしこ)」と呼ばれる、半纏・法被の様な服(江戸の火消しが着ていたタイプ)を水で濡らして防火衣としていた時代もありました。明治や昭和初期には、革や丈夫な布で作られた防火衣も登場しました。
(右) 上勝町消防団(徳島県勝浦郡)で実際に使用されていた昔の防火帽。
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防火衣の活躍場所
防火衣は文字通り、火災現場で着用します。勿論、現場を見据えた訓練でも着用して望みます。
消防団においては、場合によっては現場へ活動服を持たずに駆けつける場合もある事から、火災以外の現場では消防隊員としての身分証的な側面も持ちます。
(右) 平成26年徳島市消防出初式での訓練展示の様子。
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